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「ハワイに来る人たちに知ってほしい!」(シリーズ第二弾)これって緊急?救急医療の見分け方を教えて。

ハワイで「聖ルカクリニック」を開業して25年の小林 恵一院長に、「ハワイに来る人たちに知ってほしい!」というテーマで、前回に引き続き、ハワイに来てから慌てないために医療の分野からアドバイスをしていただきました。

第二回目のテーマは「これって緊急?救急医療の見分け方を教えて」です。

もし、旅行中にめまい、吐き気、胸痛、微熱などを経験した場合、すぐに病院に駆け込んだほうがいいのか、それとも様子を見たほうがいいのか、海外だからこそ決心がつかないことも多いでしょう。こういった症状が出た時に、緊急かどうかの判断を誤れば大変なことになってしまいます。これは旅行者だけでなく、ハワイ在住者にとってもお同じ。そこで緊急かどうかの目安になる症状をわかりやすく、小林院長に教えていただきました。

救急医療とは何ですか?救急車で運ばれるイメージですが、簡単に教えてください。

小林院長:救急医療とは、救急室(エマージェンシー・ルーム)での治療が必要な場合を言います。患者さんの容態に関して緊急の度合いを判断するには、下記の3段階に分けて考えます。

  1. 通常の風邪のように緊急性のないもの
  2. 救急まで行かないけれどアージェントケア的なもの
  3. 命に関わる可能性のあるもの
アージェントケアは、どのレベルまでのことを言うのですか?

小林院長:点滴を打ったりするなどの治療をして、入院させることなく患者さんをその日のうちに帰らせることができる治療をアージェントケアと言います。

アージェントケアでは、その日のうちに帰れるのですね。

小林院長:そうです。そして、命に関わるような緊急性のあるものが救急医療です。

例えば、めまい、吐き気、胸痛、微熱を患者さんが訴えた場合、それぞれにおいてそれが緊急なのかどうか、どのように判定されるのですか?

小林院長:先ず医師は「主訴」を大切にします。主訴とは、「患者さんの訴えを一言で表したこと」という意味で、患者さんが申し立てる症状のうちの主要なものです。

初めて、主訴という言葉を聞きました。

小林院長:例えば、「胸が痛い」これが主訴です。でも、胸が痛いだけではわからないですよね。「この3年間胸が痛い」と「この1時間胸が痛い」など、詳細な情報が加わるともっとわかりやすくなります。例えば、主訴を聞いて医師の頭の中に5、6つの疾患の可能性が浮かんだとします。次にそれを選り分けるための質問を追加で2、3すると、いくつかの候補がパッパと消えて1つの可能性が残ります。大抵の場合、最初の5分間で診断の検討はつきますが、患者さんに伝える時はいきなり診断を言わず慎重になります。

はっきり言われると、患者さんはびっくりしちゃうかもしれませんね。

小林院長:いくつかの可能性が頭の中に浮かび、その中に命に関わる可能性が入っていたら、患者さんを救急に送らないといけないので非常に慎重になります。この判断能力が医師と医師でない人の1番の違いです。

なるほど。患者さんが医師にいくつかの症状を訴えることで、病名が絞り込まれ、クリニックまたはアージェントケアで治療するのか、救急室に送るか、その判断を医師がするのですね。

小林院長:そういうことですね。私のクリニックへ患者さんがくる場合、大抵2種類に分かれます。ルーティーンで薬を取りに来たり、定期検診に来たりする患者さんと緊急性があってくる患者さんです。私のクリニックでは、ルーティンとアージェントケアの両方をやっていますが、救急医療はやっていないので、来られた患者さんから「主訴」を聞いて、緊急医療が必要かどうかの判断をしてから、必要とあれば救急室に送ります。

例えば「めまい」でお越しになられた患者さんは、どのように診断されるのですか?

小林院長:めまいという感覚は大きく5つの種類に分けられます。

私は起き上がった時にぐるぐる目が回った経験があります。

小林院長:それは回転性のめまいで、自分は動いていないのに、自分や天井や壁などがぐるぐる回っているように感じます。

何が原因ですか?

小林院長:耳の奥には三半規管という平衡感覚を感知する組織があり、この三半規管の中に「耳石(じせき)」という石があるのですが、この耳石がはがれ落ちて、身体の平衡感覚を司る三半規管(さんはんきかん)の中に入ってしまうことで、耳石が神経を刺激して回転しているように感じさせます。人によって完治するまでの期間は異なりますが、90%の人は1週間以内に治ります。

そうだったんですね。原因がわかって安心しました。

小林院長:重要な診断ポイントは、めまいの時に聴力障害があるかどうかです。めまいには第8番目の脳神経が関わっているのですが、聴力も同じ第8神経が司るのです。もし平衡感覚と聴力の両方に異常が見られる場合、脳の異常を疑わなければなりません。

聴力障害があるかどうかで違いが出るのですね。

小林院長:回転性めまいだけで、耳はよく聞こえてますという場合はあまりたいしたことはないでのすが、耳が聞こえないとなれば、それは脳腫瘍、メニエール病なども考えられます。耳鳴りや難聴など聴力障害がある場合は、すぐに医師に相談してください。素人判断をせず、経験豊富な医師に連絡しましょう。

高熱はどうですか?

小林院長:熱自体が問題ではなく、熱の原因を突き止めることが大切です。例えば膀胱炎で熱がなければ危険はありません。膀胱炎がこじれて、腎盂炎になり高熱が出たら、次に起こるのは血圧の低下です。でもこれは必ずしも救急ではなく、アージェントケアレベルで対応できる場合もあります。

次に胸が痛い場合はどうですか。

小林院長:胸の痛みは1番注意しなければならない症状です。胸が痛い時は、心臓の痛みなのか、心臓以外の痛みなのかで違います。心臓の痛みであれば最悪の場合、死に至る可能性があり、心臓以外の痛みであればたいしたことはない。つまり両極端なのです。

その痛みが心臓からなのかどうかは患者本人にはわかりませんよね。

小林院長:医者にすぐ連絡してください。胸痛に関しては、直接救急室に行った方がいいでしょう。狭心症、心筋梗塞の前触れの可能性がありますから。

家に誰かがいて、すぐに救急室に連れて行ってもらったので、命拾いしたとかよく聞きます。時間との戦いですね。

小林院長:心臓の痛みの場合、胸痛がある間は完全に横になって動かない事です。立ったり座ったりしてはいけません。横になり痛みがとれるまで動かない。じっとしていて、それから電話をして救急車を呼ぶこと。自分で救急室に行こうと思ってはダメです。

救急車を呼ぶのですね。

小林院長:結果として「心臓ではありませんでした。軽症でした。」と言われても、それは結果論であって、痛みの起こった時は判断がつかないのですから、すぐ救急医療を受ける必要があります。これは1番大切なことです。

躊躇している暇はないですね。

小林院長:もう1つの例として、意識を失ってしまった場合です。これはアージェントケアではなく、いきなり救急です。立ちくらみとは違います。例えば部屋に入っていくと家族が意識を失って倒れていた。この場合はすぐ救急室へ。他にも酔っ払って寝ている人がいた。呼びかけても意識がなければすぐに緊急医療が必要です。救急室へ運んでください。

救急室に行かなければいけない他の症状はありますか?

小林院長:体が麻痺した時です。指が動かない、手首が動かないではなくて、1番恐ろしいのは、「手と足が動かない」時です。手足が同時に動かなくなって、言葉が出にくい時は脳卒中の可能性が高いですから、時間との勝負になります。

しっかり覚えておきたいです。吐き気はどうですか。

小林院長:吐き気は救急の場合はあまりないでしょう。ただ、たくさん吐きすぎて脱水状態になり、血圧が下がっている場合は別です。意識混濁という、自分の現在置かれている環境の認識が低下する状態では救急となります。

吐き気は体の中の良くないものが外に出たがっていると思っていたので、吐き気がしても、水をたくさん飲んで出す方がいいと思っていました。

小林院長:吐くというのは、胃腸が機能していないということです。胃の内圧が高くなると吐きます。休んで待っていると胃腸は処理できるようになりますから、水を飲んでも大丈夫になります。つまり、胃腸が動いていない時に、水を飲んでもお腹がどんどん膨れていくだけで吸収されていません。こういう時は点滴をしたほうがいいですね。

吐き気が緊急につながることは意外に少ないのですね。

小林院長:頭痛で吐いた場合は違います。脳の中の出血が絡んでいる場合があります。頭をが〜んと打ってそのままにしておくと、吐き始めたりします。

小さな子供が転んで頭を打ったけど、たいしたこともなく元気そうにしていた。でも数時間後に突然吐き始めたという話を聞いたことがあります。

小林院長:そんな時は、素人判断をせずにすぐ医者に連絡してください。

旅行者の場合は、近くのアージェントケアを探して相談すればいいですか?

小林院長:そうです。主訴が緊急の必要性の大きな判断材料となるので、日本語の通じる医師のいるところに相談するのが良いでしょう。在住者はかかりつけ医に連絡してください。

ハワイに住む日本人は大袈裟にしたくないと思う人が多いので、こういう事態でも積極的に連絡しない人もいるのでは?

小林院長:在住日本人は非常にアメリカ的な人と、日本的な人との2通りに分かれます。でも緊急と感じる時は、「もしかしたら軽症かも」、「迷惑をかけるかも」などと考えずに気軽に医師にご連絡ください。

アージェントケアには少し気軽に行ってもいいのですね。安心しました。そこで医師は緊急性を判断してくれるのですね?

小林院長:アージェントケアでは、患者の重症度をトリアージュ(分類して判断)します。治療の前にどこで治療するのか、どのレベルで治療するのかを判断してくれます。では、救急医療の見分け方です。命に関わる緊急性の高い症状は次の3つです。

  1. 胸の痛み
  2. 意識障害
  3. 麻痺
この3つを先ずはしっかり覚えておこうと思います。

小林院長:この他にも、呼吸ができない息苦しさも緊急性が高いですね。例えば火傷(やけど)です。火傷には、I度(皮膚の表面までの損傷)、II度(表皮の下の皮膚に達する熱傷)、Ⅲ度(皮膚がすべて損傷された状態)があって、大抵はII度で赤く腫れるのですが、その腫れている面積が大きいと危険です。

火傷は呼吸と関係するのですか?

小林院長:火事で助け出された人は、熱風が気動に入り込み気道にも火傷をしている可能性があります。今、呼吸はできているけど、やがて気道が腫れてきた時に窒息による呼吸停止を起こす可能性もあります。

怖いですね。

小林院長:表面的にたいした火傷をしていなくてよかったと思っていても、かなりの熱風を吸い込んでいて、体内で火傷をしているということがありますから気をつけてください。

ところで、ハワイはビーチも多くて海水浴をする人が多いのですが、泳いでいて唇が紫色になるのは大丈夫ですか?これはただの寒さの表れですか?

小林院長:唇が真っ青でも意識があれば大丈夫です。例えばプールで溺れたとします。先ほどの原則に則ってみると、意識がないと救急の対象になります。

現場にいる人間の知識の豊富さが大事ですね。例えばですが、バスを追いかけて全力疾走して、胸が激しくドキンドキンした。

小林院長:意識があって、胸の痛みがなければ大丈夫です。では、もう1度おさらいです。緊急医療が必要なケースはいろいろありますが、下記の3つを柱として覚えておきましょう。

  1. 胸が痛い
  2. 意識がない
  3. 身体の麻痺

もちろん、手足がちぎれるような大きな外傷はすぐに救急です。上記3つに入っていなくても、アージェントケアではなく救急です。

外傷は誰の目から見ても救急ですが、自分でも判断しきれない、そして我慢ができてしまうという症状が難しいですね。この3つを忘れずにいたいと思います。小林先生、いろいろと勉強になりました。
今回のまとめ
3つの症状(胸痛・意識喪失・身体麻痺)が緊急医療の目安。でも、どうしていいかわからない場合は、医者に相談する事。
聖ルカ クリニック ワイキキ
St. Luke's Clinic - Waikiki
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2022/12/10 (Sat)