
ハワイのローカル食文化への誇りと情熱をもつオーナー兼シェフ ロビンさん
いまローカルの間で、確実にファンを増やし続けている店「Aliʻi Fish Market(アリイ・フィッシュ・マーケット)」。
実はこのお店、場所も少し分かりづらく、通りがかりに偶然見つけるタイプのお店ではありません。それでも口コミだけで評判が広がり、いまでは開店前からお客が並び、さらには「この店のために空港から直行してくる人もいる」というほど、厚い信頼を集める存在になっています。
今回、オーナーシェフのRobin Abad(ロビン・アバド)さんにお話を伺い、その人気の秘密に迫りました。

サウスキングストリートの隠れた場所にある
店名にあるAliʻi(ハワイ語で「王族」、「首長」、「ロイヤル」を意味する言葉)に、すべての想いが込められていると語るロビンさん。「僕たちは、コミュニティのみんなを“ロイヤル”のように大切にしたいんです。だから“ロイヤルレベルのクオリティのポケ”を、きちんとした価格で届けたいと思いました。」
彼が目指したのは、大きなスーパーマーケットで販売されるポケではなく、クラフトポケショップ。さらに、小さなビジネスやローカルの生産者とつながりながら、「良い食材」「良い作り手」「良い料理」を集めて、一つの“マーケット”を作ること——それが彼のビジョンでした。
もともとロビンさんは、小さなケータリングビジネスも手がけており、ビジネスパートナーとともにポケショップとしての構想を進めるうちに、ある想いが芽生えたといいます。
「これは、ただのポケショップじゃない。それ以上のことができるんじゃないか、って思ったんです。」

ポケだけでなく、惣菜やデザート、オリジナルソースまで揃う
ロビンさんのビジネスパートナーが毎朝市場へ足を運び、自分の目で魚を見て仕入れます。
彼らの共通理念は、単に“美味しいポケ”を作るだけでなく、
「正しいポケを伝えること」、
「料理を通して、現代のハワイ文化を伝えていくこと」。
そこに強い使命感を感じて取り組んでいます。
そして、ポケだけでなく、スモークミート、ヌードル、ムスビ、デザートなど、少しずつメニューは広がっていきました。
コミュニティの人たち一人ひとりを、まるで「王族のようにおもてなしする」かのように料理を提供したい————そんな強い想いを持って、日々チームで厨房に立っています。
Aliʻi Fish Marketは、シェフ主導のポケショップ。それこそが他店との最大の違いだと、ロビンさんは語ります。
メニュー開発も味作りも、すべて現場のシェフたちが中心となって行っています。
実はこの店で働くシェフたちは、ハワイのトップクラスのレストランや5つ星ホテルで経験を積んできたメンバーばかり。
ロビンさん自身も、ハレクラニの「オーキッズ」やアロヒラニ・リゾートなど、ハイエンドな現場で長年腕を磨いてきました。
その経験を、あえてこの小さなポケショップに持ち込み、ホテルクオリティの考え方をローカルの食堂サイズで再現しています。さらに、スタッフが持ち込むアイディアも丁寧に吟味し、「これはいい」と判断したものだけをメニューに反映しています。
また、可能な限りローカルの食材を使い、海、土地、農業、生産者を大切にする姿勢も徹底。
ロビンさんをはじめスタッフ全員が、「自分たちがやっていることは本当に正しいのか?」を常に問い続けています。

仕入れに合わせて、フェアな価格をつけて販売
取材した日も、「POKE $12/LB」で販売。しかも冷凍ではなく新鮮な魚でこの価格は破格です。開店前から長蛇の列ができるのも納得です。
よくお客さんから「この値段でちゃんと儲けはあるの?」と心配されるそうですが、ロビンさんはこう話します。
「海が十分な魚を与えてくれて、土地が十分な食材を与えてくれたなら、僕たちはそれに見合った形で、お客さんに提供しなければいけない」。
その日の仕入れに合わせ、フェアな価格をつける。それが自分たちにとって“正しいやり方”なのだと語ります。
シェフ主導の店ならではの、他のポケ店ではなかなか出会えない味付けが揃います。
多様な移民が築いてきたハワイの食文化を意識し、例えば、ゆずは日本、キムチは韓国、しょうがは中国といった要素をモダンに昇華。ポケだけでなくホットプレートメニューも同様で、味への妥協は一切ありません。
その洗練された味に、ローカル客たちは虜となり、リピーターとなっていくのです。
入店から退店まで、一人ひとりに丁寧に接することを大切にしているロビンさん。取材中も、ひっきりなしにお客さんから声をかけられている姿がとても印象的でした。
「王族をおもてなしする」かのようにお客を大切にする——その信条を、まさに有言実行しているのだと確信しました。
実はこの店、自分たちからメディアに売り込むことは一切せず、「お店が自然に育つのを待った」のだそうです。
その代わり、値段、味、ホスピタリティの3つを徹底。時間はかかりましたが、ローカルに支持され、リピーターが増え、YelpやGoogleの評価が広がり、いまでは本土や海外からの観光客も訪れるようになりました。
「人はちゃんと、味も質も分かるようになってきている」。
その言葉に、静かな自信がにじんでいました。
ロビンさんの料理への情熱は一体どこから生まれたのか? それは、オアフ島のカリヒ・ファリントン高校時代でした。
当時は将来の夢もなく、スポーツに打ち込みながら、「とりあえずカレッジか、ミリタリーか…」と漠然と考えていたといいます。
そんなある日、友人に「フードサービスのクラス、楽しいし、食べられるよ」と勧められ、軽い気持ちで登録。すると、クラスは女子生徒が大半を占め、「食べられるし、女の子も多いし、最高じゃん!」とモチベーションが上がったと言います(笑)。
ところが授業がはじまると、まずは小さなクッキーやパイ作りから始まり、それが驚くほど楽しかった。そして何より、先生たちが本気だったと当時を振り返ります。
問題を抱える生徒も多い中で、真剣に取り組む生徒を見抜き、時間と情熱を注いでくれた。その様子を
「種をまいて、土を耕して、水をあげて、芽を育ててくれたんです」と語ります。
卒業から約30年経ったいまも、その先生たちとの関係は続いており、現在はその恩返しの思いも込めて、ロビンさんが高校で講師として料理を教えたり、店でも将来シェフを目指す若者たちの育成に力を入れています。
料理だけでなく、人を育てる場所。
それもまた、Aliʻi Fish Marketの大切な役割です。

Spicy Creamy Garlic Ahi &Smoked Shoyu Ahi with Lechon Crunch
日本人観光客が初来店した際に、ロビンさんがおすすめするのが、
常に人気No.1のポケで、実は新作メニューを考案中に「ミステイク」から生まれたそう。試作中に「ちょっと違うな」と思い、アレンジを重ねた結果、「これ、いける!」と誕生した一品です。

Ginger Ahi & Garlic Butter Ahi
そのほか、
Ginger Ahi(ジンジャーアヒ)やYuzu Shiso Ahi(柚子紫蘇アヒ)も、日本人の口に合う味としてすすめてくれました。
「クレイジーな味付けがたくさんあるけど、自分が選ぶなら基本に戻ってSpicy Ahi(スパイシーアヒ)かな」。
アラエソルト(ハワイ産の塩)とリム(ハワイの海藻)を混ぜ、フレッシュな醤油と少し多めのチリウォーターをかけて、寿司ライスにのせて食べる——それが、ロビンさん流の至福の一皿だそうです。
その日に仕入れた食材を、どの国の文化の調理法で仕上げようかと創造力を働かせながら料理を作る——それがとても楽しいと、ロビンさんは目を輝かせて語ってくれました。その“楽しんでいる”波長が自然と店全体に広がり、多くの客を引き寄せているように感じられます。
移民が築いてきた多様な食文化を、現代風にアップデートしているのがAliʻi Fish Market。例えば、オープン以来人気のInani Bombs(いなりボム)や、昨年から登場したYaki Onigiri(焼きおにぎり)も、和食がベースでありながら、日本にはない“ハワイの味”へと昇華されています。
「日本にもあるからいいや」と思わず、ぜひハワイのシェフたちの創造力が詰まった一品を体験してみてください。

