
今年75周年を迎えるアロハ豆腐の工場
ハワイの食卓にすっかり馴染み、ローカルフードとして愛されている「豆腐」。その存在を75年にわたって支えてきたのが、ホノルル発の老舗ブランド「アロハ豆腐(Aloha Tofu Factory)」です。異国の地で豆腐づくりに挑んだ一家の物語、地域とともに育んできた歩み、そしてこれからの挑戦とは──。アロハ豆腐の歴史と魅力に迫ります。
ハワイにおける豆腐づくりは、20世紀初頭に日本からサトウキビやパイナップルのプランテーション労働者として移住してきた日本人によって始まりました。彼らは日本の伝統的な技術を使い、ハワイの地で新鮮な豆腐を製造。次第に、家族経営の小さな豆腐店が各地に生まれていきました。やがて、豆腐はハワイの多様な食文化のなかで広く受け入れられるようになり、日本料理のみならず、中国料理、韓国料理、東南アジア料理、そしてハワイ独自のローカル料理においても欠かせない食材となりました。その背景には、豆腐がアジア圏全体で親しまれている伝統食であることも影響しています。さまざまな文化的背景を持つ人々が集まるハワイにおいて、豆腐店は多様なアジア系コミュニティから長年にわたり厚い支持を受けてきたのです。

上原亀三郎さん(右)と妻の鶴子さん(左)
1950年、沖縄からの移民の上原亀三郎さんが、50歳で知人から「この豆腐工場を継いでほしい」と声をかけられたことが、アロハ豆腐の始まりでした。当時、豆腐づくりの経験はまったくなかった亀三郎さんと妻の鶴子さん。しかし短期研修を経て夫婦二人三脚で事業をスタート。最初は家族のための小さな生産規模でしたが、地道に技術を磨き、需要に応える形で成長していきました。

様々な困難を乗り越えながらハワイ最大の豆腐メーカーへ成長
HRマネージャーとして、現社長を支える妻美砂さんは「沖縄の移民の人たちの助け合いの精神はすごい」と語ります。工場を引き継いで欲しいと亀三郎さんに声をかけてきたのも沖縄移民の方。そして、いざ引き継いでから転機となったのが、かつて勤務していた「タイムス」スーパーマーケットとのつながり。創業者がやはり沖縄移民で、アロハ豆腐の卸しが実現し、販路拡大を後押ししました。
1964年には工場が火災で全焼するという危機もありましたが、これも沖縄移民が営む「アアラ豆腐」に1年間工場を借りることで乗り越えました。その後、6人の子供たちとともに家族全員で再起を誓い、現在のカリヒ地区に新工場を設立。1980年代にはハワイ最大の豆腐メーカーへと成長し、木綿豆腐、絹ごし豆腐、厚揚げ、納豆、豆乳などラインナップを拡大。ホテルやレストラン、食堂へも供給されるようになり、今ではハワイ中でアロハ豆腐の製品を見かけるようになりました。
ハワイ在住者には、「アロハ豆腐、美味しいけどちょっと高い」と感じたことのある人も多いのでは? 実はこの価格設定には、亀三郎さんのある配慮が込められています。「自分たちが安売りすれば、他の豆腐屋が潰れてしまう」。多い時で、ハワイ全体に14店舗あった豆腐屋は、いずれも地域に根付いた小さな家族経営。「みんなで生き残る」ために、あえて高めの価格設定にしたのです。まさに“アロハ(思いやり)”の精神が息づいています。

鶴と亀のブランドロゴをバックに、ポール&美砂社長夫妻
現在の舵取りを担うのは、三代目のポール・ウエハラ氏。亀三郎さん&鶴子さんの孫の1人で、台湾や広島で英語教師を務めた後、1996年に家業に戻り、2004年に社長就任。2005年には鶴と亀をモチーフにした現在のブランドロゴを自らデザイン。伝統を守りながら、時代に即した改革も進めてきました。

出来立ての豆腐をすくって容器へ
アロハ豆腐の味の決め手は、遺伝子組み換えでない大豆、ハワイ島の軟水、そしてコナの海洋深層水から作られる天然にがり。保存料は不使用。ナチュラルで安心な豆腐です。日本の豆腐業者が訪れるたびに、毎回口を揃えて、「こんな町中に工場がありながら、水道水でこの品質の豆腐が作れるのがすごい」と驚かれると言います。 アメリカ本土で豆腐を作る場合も、水が違うため、この品質を作るのは難しいと言われ、まさにハワイの自然が生み出す味なのです。

ポール社長が必ず目で確認し、微調整をする
工場は朝3時から稼働し、1日3,000〜5,000丁を生産。半自動システムの導入で効率化を図りながらも、職人が常に豆腐の状態を目で確認し、細やかな調整を欠かしません。取材中もポール社長が「少しゆるいかも」と見抜き、納得いくまで手を加えている姿を目の当たりに。まさに「一丁ごとにアロハを込めて」が体現されています。

おからはワイアナエの養豚場に無償提供
アロハ豆腐は、教育にも熱心です。地元小学校での食育活動、工場見学、体験イベントなどを通じて、子どもたちに「食」や「自然」「地域」の大切さを伝えています。また、製造過程で出る「おから」は、近隣の養豚場に無償提供。フードロスの削減と地元農業支援を同時に実現しています。

エコバックや布巾、ステッカーなどのグッズ販売も開始
2025年、アロハ豆腐は創業75周年を迎え、オンラインショップもオープン。Webで注文・決済して、あとは工場で受け取るだけという、忙しい現代人に嬉しいサービスです。さらに、グッズ販売も開始し、地元客はもちろん、観光客にもお土産として欲しくなる商品が揃っています。
アロハ豆腐は、2025年3月にホノルル市議会より正式に「75周年認定」を受けました。「これからも、“豆腐を知りたい”“ここで働きたい”と思ってもらえるような会社を目指したい」と語るポール社長。実際、今では若い世代のスタッフも増え、まるで本当のオハナ(家族)のように、互いを大切にしながら共に働いています。一丁の豆腐の中には、人の手と想い、そしてハワイの自然と歴史がぎゅっと詰まっています。アロハ豆腐の挑戦は、これからも続いていきます。
961 Akepo Lane, Honolulu, Hi 96817 (Map)
- 電話番号
- 808-845-2669
- 営業時間
-
日月火木金 7am- 12pm
水土 7am -10:30

