王国時代にタイムスリップ!イオラニ宮殿に行ってみよう

世界各地から船が集まるホノルル港の港町として、賑やかに発展していったダウンタウン。そこに、堂々たる姿でたたずむ「イオラニ宮殿」があります。この宮殿では、アメリカに併合される前に存在した「ハワイ王国」としてのハワイが再現され、その貴重な歴史が保存されています。

リゾート地としてのハワイとは、ひと味違った王国時代のハワイを体験できる、イオラニ宮殿をご紹介します。まずは、どのようにして、この現代に残る宮殿ができたのか、その歴史を振り返ってみましょう。

ホワイトハウスをしのぐ、最先端の技術が導入された宮殿

カメハメハ大王によってハワイの島々が統一され、1810年にハワイが王国として新たな一歩を踏み出しますが、大王の子供たちにあたるカメハメハ2世、3世の時代、ハワイ王国の首都はマウイ島のラハイナでした。そのような中、オアフ島のホノルル港が活発に使われていたこともあり、港に近いホノルルのダウンタウンにあった王族所有の木造の家を、カメハメハ3世が宮殿として使うことに決めて、1845年に首都を移転させ、その木造の宮殿は「ハレ・アリイ(王族の家)」と名付けられ使われました。それが、現在のイオラニ宮殿のある場所です。その後、カメハメハ4世、5世と、仲の良い兄弟によって代々使われたハレ・アリイ。4世が亡くなった際に、5世が4世の名前の一部「イオラニ(天高く飛ぶ鷹、または王家の鷹)」から、「イオラニ宮殿」と新たに名付けました。

イオラニ宮殿となった頃には、この木造の宮殿は傷みがひどくなっており、7代目の王、カラカウア王は、宮殿の建て替えを決意します。その工事の間に王は世界一周旅行に出て、日本をはじめ、各国の移民政策などを学んでハワイに帰りますが、その旅の途中、電球というものが存在することを知った王は、なんとエジソンに直接会って、電球のしくみなどを学んでいます。

新しい物が大好きなカラカウア王。1882年、コンクリート製の荘厳な姿に生まれ変わった宮殿に、電球を灯すための工事を追加し、自身の50歳の誕生日である1886年11月16日、宮殿に電球の光が灯りました。それは、ホワイトハウスよりも、バッキンガム宮殿よりも早かったそうです。

1800年代に電球が灯り、電話も導入され、さらに当時としては大変珍しい水洗トイレが備わり、温かいシャワーも使えた宮殿は、当時の最新の技術が導入された建物だったのです。

イオラニ宮殿のつくり

宮殿は、建設当初、カラカウア王と、妻であるカピオラニ王妃が公邸として使ったもので、地下、1階、2階のフロアから成り立っています。

1階部分が公の場として使われたフロアで、広々としたエントランス、公的な行事や、国王への謁見等が行われた「玉座の間」をはじめ、お客様をおもてなししたり、政治的、外交的な話し合いなどが行われた部屋やダイニングルームがあります。地下のフロアに、大きなキッチンや食材等の倉庫があり、執事の部屋などがあります。

一方、2階は王と王妃のプライベートな空間で、それぞれのベッドルームや、曲作りが得意な王らしく「音楽の間」、書斎があります。カラカウア王の後を継いだ、妹のリリウオカラニ女王の時代になると、アメリカ人が結託して王国を強引に終わらせてしまいますが、この2階の一室に、リリウオカラニ女王は、アメリカ人たちによって約8か月間に渡って幽閉されました。そんな、悲しみに満ちた部屋も残されています。王国終焉後は、知事室を持つ政府の庁舎として使われていました。

宮殿内のツアーに参加しよう

イオラニ宮殿は人気の観光スポットとなっている上、一度に宮殿に入れる人数も制限していますので、ウェブサイトからの事前予約が勧められています。ツアーは、日本語を含む8か国語で解説してくれる機器を用いて、自分のペースで進む「オーディオ・ツアー」と、日本人専属ガイドによる「ドーセント・ツアー」(水・木曜日の午後3時30分~)があります。予約したツアーの開始時間30分前に、宮殿横にあるこちらの建物でチェックイン手続きをします。

こちらは王国時代、王族の身を守るロイヤル・ガードの詰め所として使われていた建物です。現在は、受付、シアター、ギフトショップ、お手洗いがあり、正面入り口を入ってすぐに、受付デスクが設置されています。そちらで、予約した時間が記されたシールを受け取り、見える所に貼って、宮殿へと向かいます。宮殿内には、大きなカバンやバックパック、飲食物は持ち込めませんのでお気をつけください。

宮殿の敷地内で行われるイベントにも注目

イオラニ宮殿では、宮殿内のツアーに加え、敷地内で様々なイベントが開催されています。

毎週金曜日の午後12時からは、「ロイヤル・ハワイアン・バンド」による定期無料コンサートが開催されています。1836年にカメハメハ3世(当時の王)によって結成された、歴史あるバンドによる1時間程のコンサートで、厳かな雰囲気でのハワイ王国国歌斉唱から始まり、有名なハワイアンソングなどを、涼しい木陰でたっぷり楽しむことができます。

また、ハワイの歴史と文化を称える重要なイベントが、毎年6月11日の「カメハメハ・デー」に合わせて開催されます。宮殿の向かい側にあるカメハメハ大王像がたくさんの花のレイで飾られ、イオラニ宮殿からワイキキのカピオラニ・パークまで、パレードが大通りを練り歩きます。その際に、毎年ハワイの各島を代表する女性が素敵なドレスに身を包み、馬に乗ってパレードを行いますので、宮殿の庭には、多数の馬が集まります。

宮殿が建てられた当初は、馬が人を乗せるワゴンを引くなど、人々の生活に欠かせないものでしたので、宮殿と馬が同時に見られることで、タイムスリップしたような気分を味わえます。

11月、12月の宮殿は、特別な装いに

11月16日は、カラカウア王の誕生日ということで、11月中旬から下旬にかけての宮殿は、とても美しく飾られます。

カラカウア王の生誕50年祭が1886年11月に行われ、その際に、宮殿を様々な旗と、旗の色である赤・青・白の布を使って飾りました。その当時と、全く同じ姿の宮殿が、現代に再現されています。さらに、宮殿の屋根に取り付けられている旗も、王国時代に使われていたデザインのものです。

宮殿に向かって、入り口右側と真ん中の屋根に掲げられているものは、カラカウア王個人の旗。白地に王国の紋章の一部が施されています。その右手のものは、王国時代に、王族の公式な旗として使われていた旗で、それぞれ、現代ではなかなか目にすることができないものです。

また、12月になると、クリスマスに合わせて、多数の赤・白・緑の提灯で宮殿の外観や庭が飾られます。

これは、電球が導入された際に、実際に提灯を使って宮殿を飾ったことを再現したものです。当時の提灯の色は、こんなに賑やかな色ではありませんでしたが…クリスマスの雰囲気を演出していますね。夜には提灯に光が入り、宮殿自体も美しくライトアップされます。

11月後半から12月いっぱいという、期間限定でしか見られない特別な装い。機会があれば、ぜひご自身の目でご覧になってみてはいかがでしょうか。

王国時代のきらびやかな世界と、王国が転覆させられた、ハワイアンにとっての悲しみの時代…。宮殿は、様々なことを私たちに考えさせ、問いかけてきます。明治天皇からの贈り物である見事な壺が飾られるなど、見どころが満載の歴史あるイオラニ宮殿。ハワイを深く知るためにも、ぜひ訪れてみてください。

ABOUT WRITER
さゆり ロバーツ

東京生まれ。英会話講師を経て、2006年より「ワイキキ・ダウンタウン歴史街道ツアー」の主宰者、および、ハワイ州観光局公認講師として、ツアーや講演活動等を行う。テレビやラジオ、雑誌等、メディア出演多数。趣味は旅行とカフェ巡り。